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第73回(2023)滋賀県文学祭_詩部門_入選7 散歩(夏の湖畔) 和田祐子
投稿日 : 2024/10/03(Thu) 14:43
投稿者 選者・北原千代・辰巳友佳子・水沢 郁
参照先
入選7

散歩(夏の湖畔)

  和田祐子(大津市)


茂みから飛び立つ鳥に驚きながら
細かい虫を振り払いながら
蝶々が留まる先を見定めるまで
立ち止まっていた

伸びるだけ伸びた植物は
濃密な匂いを撒き散らす
帽子もマスクもとって
いつの間にか結構な汗をかいて
湖に突き出た半島を周る
これで私の散歩は終わりだ
ほんの短い距離だけど
時間をかけてゆっくりと
今の身体の調子に合わせて

夏近い湖畔
黒い猫がのんびりと寝そべっている
葉擦れの音がさやさやと
さざめく波に溶け合って
ここしばらくの時間を
静かに思い返す

湖の空高く虹色に光る雲は
昔見た弥陀の来迎図のごとく
多くを失えどもまたここに立つことを
祝福するかのように

向こうに見える美しい形の山に
そしてこの湖の広さに
何の根拠もないけれど
脳に棲みついた異物になど負けないと
自信を持つことができた

今日も生まれてきて良かったと
ただそう思いながら
今日も生きていて良かったと
ただそう思いながら
あらゆるものを新しい眼で見つめ
独り、歩く

夏近い湖畔
黒い猫が退屈そうに
まだ気負いすぎだとでも言いたげに
こちらを見て欠伸をした

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