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投稿日 | : 2024/10/03(Thu) 15:06 |
投稿者 | : 選者・北原千代・辰巳友佳子・水沢 郁 |
参照先 | : |
入選6
木曜日の朝
陸田京介(長浜市)
今朝から雨は降っていた
木曜日 透明な扉は 忽然と現われ この先へ進めと告げた
悲しみ 喜び 憎しみや怒りさえもここに置いてゆけと
夕べからが雨は降っていた
雨はあの日からずっと続いている なぜ止まぬ
木曜日 抗うでもなく 彼の地で 彼の川で 飛沫の鮎に
手を伸ばした
時に流され 世に流され だが悪魔には流されないと意地を張る
真夜中にも雨は降っていた 誰の心にも 雨 雨 雨
土砂降りの雨
濁った水は永遠に泥だらけ 濁った川も山も魔物はやさしく微笑んでいる
木曜日 突然が永遠になった
木曜日 部屋には鼈甲の眼鏡がぽつり
流されず 抗うでもなく 彼の地で 彼の川で しぶきの中で微笑んだ
木曜日は一瞬で永遠になった ひとりでどこかへ行ってしまった
雨はただ降るだけ 雨はただただ降っているだけ
雨はやがて上がる 泥水は澄み渡り 月は太陽と笑い合う
木曜日 あなたの皺だらけの ゴツゴツとした手をふり 駆けていく
一匹の輝く魚をすくい上げて あの手のひらは 硬く柔らかい
嗄れたウグイスの まろやかな鳶の 清らかな温もり
そして木曜日
5回目の木曜日 鼈甲眼鏡の曇りをそっと拭った
あなたの笑顔が 川面に浮かんで 飛沫に消えた
鳥は空を舞う 水はただ流れゆく 鼈甲の眼鏡に 太陽の光が反射した
それは木曜日 夏の朝のことだった 汽笛は海に向かって鳴り止まぬ
永遠の木曜日の朝のことだった