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第73回(2023)滋賀県文学祭_詩部門_入選3 米ふみ 園田敦子
投稿日 : 2024/10/03(Thu) 16:09
投稿者 選者・北原千代・辰巳友佳子・水沢 郁
参照先
入選3

米ふみ

  園田敦子(湖南市)


台所にある年代物の
ブリキの米櫃の底が見えてくると
「米ふみたのみます」の
メモを食卓に置く

それを見た夫が二、三日のうちに
米ふみに行ってくれる
もったいなくも
主食の米を踏むとは何ごと

自分の田で作ったコシヒカリを
米蔵に一年間蓄えている
大人四人で一月に三十キロ食べる
昔で言えば一俵の半分の半俵(はんだわら)
それを十二か月分の十二袋
加えて町の親戚に送る分も少々

昔の人は兎のもちつきのように
刈りとった稲籾を臼に入れ
竪杵(たてぎね)で搗(つ)いて米にしたらしい
二千年も前の弥生時代
銅鐸に描かれる鹿や猪に混じって
臼で籾を搗(つ)くらしい二人の人

時がたち
臼の中の籾を横杵で搗(つ)き
その横棒を長くしたうえ
木や石で支点を作り
てこの原理を使った仕かけ
足踏み式米つき機ができた

長い棒のこちらの端を足で踏むと
杵がギッコンと上がり
人が足の力をぬくと
杵がバッタンと落ちる
ギッコンバッタン
ギッコンバッタン
杵が上がり杵が落ち
籾が臼の中で皮をむかれ
玄米が白米になる米ふみ

今はもう道端にある精米機に
玄米を投入し硬貨を入れると
あっと言う間に白米になっている

木製の足踏み用の長杵は朽ちても
庭の水鉢になった石臼と
杵の支点となる石の残るわが家は
今でも精米に行くと言わず
米ふみに行くと言いならわす

九月のはじめの稲刈りをひかえ
夫の八十一回めの秋が来る
そして二千回に近いであろう
この国のとり入れの秋が来る

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