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投稿日 | : 2024/10/03(Thu) 17:37 |
投稿者 | : 選者・北原千代・辰巳友佳子・水沢 郁 |
参照先 | : |
特選3
靴
松山 武(野洲市)
今日もテレビに
渋谷のスクランブル交差点が映っている
青信号で一斉に踏み出す人、人、人…
マーチングバンド顔負けの歩調で
ぶつかることなくスムーズに流れていく
だがわたしが見つめるのは靴、靴、靴…
靴は履く人の喜びや悲しみを全て引き受け
日々のドラマで黙々と脇役を演じている
アップで腰から下しか映っていない男や女の
隠された人生を靴を見て想像するのは
沙翁(シェークスピア)の舞台を見るよりおもしろい
靴の素材、色、形に歩き方までヒントに
見られていることに無意識な人の仮面を剥ぐ
靴が誘う十秒足らずの妄想の世界だ
男の足を守る大きな革靴
コロナなんかには負けないぞ、の心意気
女の足を一点で支えるピンヒール
満員電車の中では時には凶器になり
時には女の敵を撃退する武器になる
颯爽と歩く足に白いバッシュ―
人生怖いもの知らずの若さで輝いている
冬将軍と闘うための剣闘士(グラディエーター)のようなブーツ
夏には素足に透明のサンダルで暑さと闘う
妄想は頭の中でどんどん膨らむ
ぴかぴかの靴を見ると
几帳面な性格のサラリーマン、(かな?)
ショッキングピンクのスニーカーを見ると
箱根の山を駆け下りて来た山の神、(みたいだ。)
作りがしっかりしてそうな靴を見ると
成績のいい外歩きの営業担当、(に違いない。)
華奢な靴を見ると
きらびやかな店に客を迎える
ハウス・マヌカン、(と見た。)
妄想は留まる所を知らず
妄想の世界はますます広がっていく
「洋靴」を履いた写真の坂本龍馬は
「日本の夜明け」を信じた志士というよりも
ただの「新し物好き」にしか見えない
チャップリンが世界の喜劇王になれたのは
あの「どた靴」を思いついたからだろう
野口雨情は「赤いくつ」をアンデルセンの
「赤いくつ」をヒントに書いたのではないか
シンデレラは「ガラスの靴」で踊っていて
靴ずれで痛くなり早く帰りたかったはずだ
今日もテレビの画面に靴、靴、靴…
そしてわたしはいつものように当(あ)て所(ど)なく
国境のない妄想の世界を彷徨(さまよ)う…