特選１

　豊水

　　　足立紀子（大津市）


果皮に張りがあって
ふっくら　している梨の重みを
手のひらで確かめながら

他に並んだバラ売りと
二個一パックのものとも
もう一度　見比べて
スーパーの果物コーナーに
しばらく立ちんぼする
秋の彼岸

あの日
知らせを聞いて駆け付けた
ナースステーションに一番近い個室
バックバルブマスクを装着された
母は
最期にＩＣＵへ転棟した

ベッドテーブルの小皿には
剥かれた二切れの梨
母が自分で剥いて食べようとしたのだ
と、その場に居た叔母は教えてくれた

通夜の真夜中
思い出していたのは
二切れの梨の実の色
　甘かったのか
　みずみずしかったのか
　食感の歯触りはどうだったのか
　水っぽくなくて　濃い味だったのだろうか

だから今年も
あなたの命日に
この、手のひらに乗せた豊水を
そっと買い物カゴへ入れるのです