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投稿日 | : 2024/10/03(Thu) 18:16 |
投稿者 | : 選者・北原千代・辰巳友佳子・水沢 郁 |
参照先 | : |
知事賞
緑の食卓
島田照世(大津市)
大テーブルに
熟れた苦瓜をひとつ置く
腰を下ろした丸椅子には
苔が生え始めた
大楠の下 向かい側にすわる人は
みなシルエットで
何かを食べ 何かを話す
テーブルの端が届く場所は みえない
長老は杯をあげ 目配せをして
旅人をねぎらう
ようこそ この場所へ
祝っていいのかも知れないと思えた
私は汗をぬぐい
丸椅子にすわり直した
月の形を目印に 進むだけは進んだ
痛むふくらはぎをおさえて
私は ここまでの道のりを
話し続ける
私の話など 誰も聞いてはいないというのに
赤い服を着たこどもが 進み出て
つま先立ちをくり返し
熟れた苦瓜を運び去る
どこへ
丸椅子の苔は足もとを覆い
座面に及ぶ
ひととき 午睡を楽しめば
やがて テーブルは緑に覆われる
赤い種ひとつぶを
次の会話の手がかりにして
川底の小石のかたち
楕円の
斜めに薄く 水を切る
もう少し 話してもいいかな
誰ともわからない人たち
葉表の緑
葉裏の緑
そのすべてについて
愉快にあらわれること
愉快に消えていくこと
そのすべてについて