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第73回(2023)滋賀県文学祭_随筆部門_特選6 私の立ち位置 山森ふさ子
投稿日 : 2024/10/02(Wed) 16:07
投稿者 選者・長 朔男・榊原洋子・古道紀美子・
参照先
特選6

 私の立ち位置
  
  山森ふさ子(大津市)


 毎週金曜日の午前八時五十分ごろ、デイ・ケアセンターから迎えの車がやって来る。この習わしが始まって一年ほどになる。
 一昨年、要支援1の認定を受けたので、介護支援制度を利用して、筋肉トレーニングとマッサージのリハビリを受けることにした。
 近頃では慣れてきて、この一時間半を有効に楽しく感じるようになったが、通い始めのころは自分の中で、かなりの葛藤があった。
 足腰に症状が出るまでは、クロマチック・ハーモニカのボランティア演奏で、いろいろな施設を巡り、「皆様、お体を大切に、早くお元気になってください」と励ましていた。
 私もいつかは、聞く立場になる時が来るかもしれないと、頭の片隅で考えたこともあったが、まだまだ先の姿だろうと軽く流していた。と言うよりも、そうなるはずがないと信じ込んでいた。
 ところが、七十四歳にして我が身のようすが急転し、介護認定を受けられるか否かについて、包括支援センターに連絡を入れた。
 早速、相談員が来られ、次はケア・マネージャー、その次は大津市の介護福祉課の職員と、順に状況確認に来られた。何度も話を聞かれ、次第に自分の気持が萎えていった。
 常日頃から認定を受けようとする高齢者を相手にされているためか、小さな子供に接するような喋り方である。相談相手の状態に関わりなく、頭から年寄り扱いそのものである。
 私は長年仕事をしてきた。現在も少しではあるがその仕事を続けている。自分なりに自立しているという自負があったので、こうした話し方に大いに戸惑った。丁寧に話していると思っているのなら、とんだ間違いである。大事なことを決めるのだから、対等に話して貰えればと思うのだが、弱者に対する思いやりなのか、まるで子どもをあやすかのような態度が、むしろ不快にも感じられた。
 日本で介護保険制度が創設されたのは二〇〇〇年で、まだ二十三年にしかなっていない「介護」という言葉は、我国の高齢化が、欧米諸国より早く進むとわかってきた一九七〇年後半から広く知られるようになった。
 私の父も三十年前、亡くなる二週間程、まだ介護制度がなかったので、病院で「付添婦」のお世話になっていた。母も父が亡くなってから一人暮らしだったので、ホームヘルパーに家に来てもらって世話になっていた。
 介護認定には、要介護と要支援があり、その中でも細かく分れている。私は障害の状況から要支援1となった。認定され、少しほっとした。これから先を考えると、介護関係の方との繋がりを持っていた方が安心だからである。安心した半面、我が身の現実の姿を見せつけられた思いがして、少し気落ちした。
 前日まで同じことができ、同じ年代の人と一緒に過ごしていると思っていたのに、いつの間にか、社会の真ん中の場所から、高齢者ばかりの島に流されていた気分になった。このことを痛切に感じたのが、デイ・ケアでの会話であった。スタッフの人達は若い方ばかりで、てきぱきと仕事をされている。その方のお世話で、送迎の車から降りる時も手を引いてもらっている。いつもは、自分で歩けるのに、怪我をさせてはならない規則から、手を貸してくれる。昨日はこちら側にいたはずの自分が、今日は支えられる側になっている。
 私自身は、若いスタッフと同じ立場にいる気持ちではあっても、スタッフの会話スピードや言葉遣いなどに到底ついていけない。
 何よりも、若い肌つや声の張りは、心地良い。側にいるだけで若さのオーラを感じる。想像すらしなかった異次元世界に思われる。
 若さを吸い取るとか言われるけれど、その言葉も、当たっていると思うようになった。
 さりとて、高齢者の人達との昔話、孫の話ばかりの会話にはまだまだ入れない。いずれはその話の輪にも入るのだろうが、今暫くは、入りたくない。デイ・ケアという空間の中では、若い人と高齢者の人たちとの、二つの異なった雰囲気を感じることができる。
 デイ・ケアの空間だけでなく、日常生活の中でも時々こうした雰囲気を感じている。
 私が生まれたいわゆる団塊の世代は、日本の高度成長の時代を支えてきた。日本で初めて開催され、新幹線などのインフラが整った先の東京オリンピック、七十年の大阪万博などを身近に経験してきた。世の中の、生き生きとした新たな潮流を肌で感じ生きてきた。
 この感触は、私の中に未だ持ち合わせているのではないかと思う。大勢の人達と切磋琢磨してきた経験から、「年甲斐もなく」といわれようが、新しいフレキシブルな集団もあってもいいのではないかと考え出している。
 人間それぞれの歴史を背負っている。その人の歩んできた歩幅が違う。互いを認め合い一度限りの人生を辿るのもいいのではないか。
 今、自分らしさの立ち位置を探し始めている。
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